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コラム

2026.04.01

リレーエッセイ Vol.1

「出島の杜」のスタッフが交代でバトンをつなぎながら日々の気づきを書き綴ります。

憩いのオフィス、杜(MORI)

 長距離走を終えテープを切る覇者の横を黙々と走る選手がいた。

 1周遅れの選手?と思い、スタンドはその姿に感動、選手は声援の拍手の渦の中でひたすら走り続けた。ところが1周後、ゴールに辿り着くはずの彼がなおも走り続ける。何と2周遅れだったのだ。一瞬スタンドは水を打ったように静寂になった…。が彼がゴールした時、再び万雷の拍手が沸き起こった。

 イソップに「ウサギとカメ」の物語がある。少年時代、「ウサギの敗因は、カメに勝つことだけを目標にし、油断したからである。カメのようにゴールを目指して黙々と歩みなさい、そうすれば…」との諭しに我が意を射た。

 世の中、早生型、晩生型…、多様な人々が織りなし、それぞれの生き様の中で、感動や活力が生まれる。多分大切なことは、もって生まれた自らの天分に、素直に努力を積み重ねることなのであろう。

 このほど、長崎の歴史や文化を紐解くことを主眼にした出版社を立ち上げた。まさにスタートアップだが、業種的なイメージや間もなく80歳を迎える年齢からして、何周も遅れてのスタートである。

 しかし、まずは三つの喜びを得た。

一つは、「長崎のために一緒にやりましょう」という、気の置けない若い仲間との出会い。

一つは、「心配だなあ、でも心意気を応援してやろう」という、友人の誠実な熱い眼差し。

一つは、「迷惑をかけないように健康に気を付けて」という、心配が高じる家族の優しさ。

 新会社には競争相手がいるわけではない。啓明な著者との語らいの中、デザイナー、ライター…多くの関係者、時にはAI、電子の協力を得て本をつくる、書店、SNSを通じて販売する、そして次の目標に向かう。その繰り返しで進むしかないが、シニア層と向き合い、子ども達の笑顔も思い浮かべ…、待っていて下さる「スタンド」の多くの読者との出会いを夢見て、何周遅れであろうと、カメのように、しっかりした足取りで歩み続けようと思う。

 社名の「出島の杜」の「出島」は長崎の豊富な歴史や文化資産を代弁したもので、「杜」はそこに神聖さが宿っていることを匂わせたものである。古来文字活字文化は、我々に見識と教養の恵みを与えてくれている。糸井重里さんが言う「本は読んでも読まなくてもいい、そこにあるだけですごい」(朝日新聞コラム)。存在そのものが読者の大切な友達であり、そうした本づくりを目指したい。

 スタッフの真心込めた手作りの事務室が、「憩いのオフィス、杜(MORI)」として、交流思索の場として賑わい育ってくれることを願っている。

(片山 仁志)